大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和50年(ネ)453号 判決

控訴人

株式会社オリエンタルデンキ商会

右代表者

宮田わさ子

右訴訟代理人

山本法明

外一名

被控訴人

伊藤伝三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所も控訴会社の本訴請求は理由がなく棄却を免れないものと認める。その理由は次のとおりである。

訴外宮田博(以下訴外人という)が昭和三二年七月頃、被控訴人から別紙目録記載家屋(以下本件家屋という)を賃料月額五、〇〇〇円で期限の定めなく賃借したことは当事者間に争いがない。しかしながら、控訴会社が昭和三四年四月一日被控訴人の承諾をえて訴外人から右賃借権の譲渡(もしくは転貸)をうけたとの事実は、本件全証拠によつてもこれを認めることができず、かえつて〈証拠〉を総合すると、以下の諸事実が認められる。

(一)  前記訴外人は昭和三二年七月二五日本件家屋(店舗部分土間五坪)を賃料月額五、〇〇〇円で被控訴人から賃借し、光音堂の屋号で電気器具商を営んでいたが使用人の横領等により昭和三三年頃から経営困難になり事実上倒産状態となつた。

(二)  そこで訴外人は、右個人営業を会社組織に切替え事業の再建を計ることとし、昭和三四年四月一日控訴会社を設立(右同日設立登記を了す)したが、その際従前からの取引問屋筋からの示唆により訴外人の妻を会社代表者とした。しかし営業活動の中心は訴外人であり営業活動の実態に格別の変りはなかつた。

(三)  被控訴人は、控訴会社設立後も訴外人を賃借人として賃料を受領していたが、昭和三五年一一月被控訴人が本件家屋(居宅部分)から転居する際、訴外人からの申入れを容れ、同人に対し右部分をも賃貸することとし、賃料も月額七、五〇〇円と改訂した(賃料改定の点は当事者間に争いがない。)。

(四)  しかるところの昭和三七年に本件家屋敷地の地主である訴外飯田錠太郎から被控訴人と訴外人を相手方として建物収去土地明渡の訴が提起され、被控訴人は本件家屋所有者(敷地賃借人)、訴外人は、本件家屋賃借人としてこれに応訴したが、昭和三九年一二月一五日名古屋地方裁判所において、被控訴人は右飯田に対し、本件家屋敷地について賃借権のないことを確認し、昭和四七年六月末日限り本件家屋を収去し該土地を明渡すこと、訴外人は右飯田及び被控訴人に対し、右同日限り本件家屋を明渡すことなどを内容とする裁判上の和解が成立した(訴外人が右和解をなしたことは当事者に争いがない。)。

なお、〈証拠〉は、いずれも控訴会社の税務申告処理の便宜のため控訴会社を本件家屋の賃借人であるかの如く作為したものと推測される帳簿類にすぎず右認定を左右するに足りないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうだとすると、控訴会社と前記訴外人とは、法律上一応別人格と観念されるとはいえ、訴外人が個人営業を会社組織に切替えたことによる自然の成り行きとして会社もまた本件家屋を使用するという形態になつた本件のごとき場合においては、控訴会社は訴外人のいわば同居人と同様の地位にあり独立の使用権限を有せず、本件家屋に対する使用権は、基本たる訴外人の賃借権に依存し、これと運命を同じくするものと解すべく、したがつて前記(四)掲記の和解により、被控訴人と訴外人間の賃貸借関係が既に終了している以上、控訴会社もまたこれにより本件家屋を使用すべき権限を喪失し当然被控訴人に対し、本件家屋を明渡すべき立場にあるといわねばならない。

以上のとおりであつて、控訴会社の本訴請求は失当として棄却を免れないから、原判決はその結論において相当であり本件控訴は理由がない。

よつて、民訴法三八四条、九五条、八九条に則り、主文のとおり判決する。

(植村秀三 上野精 大山貞雄)

目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例